よい馬はよい繁殖牝馬から産まれる
私が一口馬主をはじめたのはシルクホースクラブの2015年度(現7歳世代)から。そのときの愛馬ブルビネラについては、ブログでも思い出をつづりました。
ブルビネラに出資した理由はただ1つ。ショウナンパンドラの妹であるという点のみ。ケガのため残念ながら2戦1勝という結果に終わってしまいましたが、1勝するだけでもすごいことです。
走る馬、走らない馬の見極めはすごく難しいと思います。元調教師など馬の専門家がアドバイザーとしてついている馬主でもなかなかGIを勝つことはできません。セレクトセールで億以上の金額を出した馬でも未勝利で終わることはしばしばです。
よく、馬体を見ればわかる、という人もいますが、プロでも失敗するのだから、あくまでも走る馬が備えている様々なファクターの1つに過ぎないと捉えるべきではないかと思います。
素人が馬体に関してうだうだ言っても無駄です(あくまでも個人的な感想です)。馬の生産にも育成にも携わったことがない人間が言う言葉に信ぴょう性なんてないと思うのですが、どうでしょうか。
であれば、素人はどうやって走る馬を見極めればよいのか。素人でも分析できる要素はたくさんあると思いますが、そのうちのひとつとして挙げたいのが、繁殖牝馬の実績です。
「よい土がよい野菜を育てる」とよく言われますが、品質の良い作物をたくさん収穫するには肥沃な土壌が必要です。
馬の世界も同じです。2015年、競走能力は父馬より母馬の影響が大きいとする研究が発表されました(論文『サラブレッド繁殖戦略における母系の潜在的役割)。それによると、出走1回あたりの獲得賞金を競走能力の指標として675頭のオーストラリア馬を順位づけし、上位30パーセントをエリート、残り70パーセントをプアに分類したとき、エリート母馬とエリート父馬の産駒が最上位、エリート母馬とプア父馬の産駒が2位、プア母馬とプア父馬の産駒が3位、プア母馬とエリート父馬の産駒が最下位になった、ということです。実証されているわけではなく仮説にしか過ぎませんが、やはり能力のある母馬の産駒は走る確率が高いといえるのではないでしょうか。
たとえばテイエムオペラオー。セリで1050万円で落札されて18億以上の賞金を稼いだことから突然変異で生まれたといわれることもありますが、母ワンスウエドの繁殖成績に着目すると、
・チャンネルフォー 18戦4勝(CBC賞2着、阪急杯3着)
・ビクトリーマッハ 18戦3勝
・シマノビューティー 12戦3勝
など、中々の成績を残していることがわかります。
馬の素人が走る馬に出資するためには、繁殖牝馬の産駒実績に注目するのもひとつの方法です。
シルク2021年度第一次募集繁殖牝馬の産駒実績
前置きが長くなってしまいましたが、ここから本題に入ります。シルクのカタログを見ていていつも思っているのですが、タテではなくヨコで一覧で繁殖実績を見たいなと。たとえばGIを輩出した繁殖はこれ!とかオープン馬を輩出した繁殖はこれ!などのようにです。
そこで自分の検討用としても使えるように、産駒実績をクラス別に分けてみました。参考にしていただければ幸いです。
GI馬を輩出
今回の募集馬の中で、GI馬の母となったのは以下の4頭です。
繁殖牝馬名 | 産駒名(種牡馬名) | 厩舎 | 主な競走成績(西暦年) |
ピラミマ | スワーヴリチャード(ハーツクライ) | 庄野靖志 (栗東) | ジャパンカップ(2019) |
ツルマルワンピース | ブラストワンピース(ハービンジャー) | 大竹正博 (美浦) | 有馬記念(2018) |
ランニングボブキャッツ | アジアエクスプレス(ヘニーヒューズ) | 手塚貴久 (美浦) | 朝日杯FS(2013) |
プチノワール | ローブティサージュ(ウォーエンブレム) | 須貝尚介 (栗東) | 阪神JF(2012) |
重賞馬を輩出
今回の募集馬の中で、重賞馬の母となったのは以下の8頭です(GI馬はのぞく)。ランニングボブキャッツはGI馬も輩出。シーズインクルーデッドは重賞馬を2頭送り出しています。
繁殖牝馬名 | 産駒名(種牡馬名) | 厩舎 | 主な競走成績(西暦年) |
ヒカルアマランサス | ホウオウアマゾン(キングカメハメハ) | 矢作芳人 (栗東) | GⅢアーリントンカップ(2021) |
グリューネワルト | ディアンドル(ルーラーシップ) | 奥村豊 (栗東) | GⅢ福島牝馬S(2021) |
ランニングボブキャッツ ※GI欄も参照 | レピアーウィット(ヘニーヒューズ) | 堀宣行 (美浦) | GⅢマーチS(2021) |
ロザリンド | オーソリティ(オルフェーヴル) | 木村哲也(美浦) | GⅡ青葉賞(2020)・GⅡアルゼンチン共和国杯(2020) |
セラドン | コパノキッキング(Spring At Last) | 村山明 (栗東) | GⅢカペラS(2018・19)・GⅢ根岸S(2019)・JPNⅡ東京盃(2019) |
スペシャルグルーヴ | グルーヴィット(ロードカナロア) | 松永幹夫 (栗東) | GⅢ中京記念(2019) |
シーズインクルーデッド | ヒーズインラブ(ハービンジャー) | 藤岡健一(栗東) | GⅢダービー卿CT(2018) |
サンデーウィザード(ネオユニヴァース) | 大久保龍志(栗東) | GⅢ新潟大賞典(2017) | |
ルシルク | グランシルク(ステイゴールド) | 戸田博文 (美浦) | GⅢ京成杯AH(2017) |
オープン馬を輩出
今回の募集馬の中で、オープン馬の母となったのは以下の9頭(GI・重賞馬はのぞく)。プチノワール、ツルマルワンピース、ピラミマはGI馬を、スペシャルグルーヴは重賞馬を輩出していますので、やはり能力が高いといえるのではないでしょうか。
繁殖牝馬名 | 産駒名(種牡馬名) | 厩舎 | 主な競走成績(西暦年) |
ランズエッジ | ヴァルコス(ノヴェリスト) | 友道康夫 (栗東) | GⅢ青葉賞2着(2021) |
プラウドスペル | グレートウォリアー(ディープインパクト) | 藤原英昭 (栗東) | OP欅S2着(2021) |
マジカルスペル(Creative Cause) | 藤原英昭 (栗東) | ||
プチノワール ※GI欄も参照 | ブランノワール(ロードカナロア) | 須貝尚介 (栗東) | GⅢ京都牝馬S3着(2021) |
スウェアトウショウ | アドマイヤハダル(ロードカナロア) | 大久保龍志 (栗東) | L若葉S(2021) |
ミスティックリップス | ハーメティキスト (ロードカナロア) | 木村哲也 (美浦) | OP巴賞4着(2021) |
スペシャルグルーヴ ※重賞欄も参照 | ジュンライトボルト(キングカメハメハ) | 友道康夫 (栗東) | |
ツルマルワンピース ※GI欄も参照 | ホウオウピースフル(オルフェーヴル) | 大竹正博 (美浦) | GⅡフローラS2着(2020) |
アーデルハイト | ロッテンマイヤー(クロフネ) | 池添学 (栗東) | L忘れな草賞(2016) |
ピラミマ ※GI欄も参照 | バンドワゴン(ホワイトマズル) | 石坂正 (栗東) | GⅢきさらぎ賞2着(2014) |
オープン馬以上を輩出したのは、今年の第一次募集馬の母74頭中15頭という結果となりました。意外と少ないかなというのが正直なところですが、どうでしょうか。GI・重賞馬を輩出した母がオープン馬を産んでいるように、やはり母の能力はそれなりに関係あるのかもしれません。もちろん、種牡馬の名前を見てもわかるように、父も獲得賞金ランキング上位を占める馬がほとんどです。
また、オープンクラスで勝ち負けをするためには、ある程度の厩舎力が必要なこともわかります。
3勝クラスを輩出
今回の募集馬の中で、3勝クラスを輩出した母は以下の9頭。なかでもピラミマは安定した成績を残しているといえます。また、ほとんどの母がオープン以上の馬を輩出していることがわかります。
繁殖牝馬名 | 産駒名(種牡馬名) | 厩舎 | 競走成績 |
ルシルク ※重賞欄も参照 | クードラパン(ダイワメジャー) | 久保田貴士(美浦) | 24戦4勝 |
アーデルハイト ※オープン欄も参照 | マイエンフェルト(ハービンジャー) | 池添学→杉山佳明 (栗東) | 18戦3勝 |
ヒカルアマランサス ※重賞欄も参照 | ギモーヴ(ハービンジャー) | 池添学 (栗東) | 17戦4勝 |
ウルトラブレンド | ベアインマインド(ディープインパクト) | 加藤征弘 (美浦) | 29戦4勝 |
ミスティックリップス ※オープン欄も参照 | ミスティックグロウ(オルフェーヴル) | 武井亮 (美浦) | 7戦3勝 |
チュウワノキセキ(キンシャサノキセキ) | 大久保龍志 (栗東) | 16戦3勝 | |
ロザリンド ※重賞欄も参照 | アーデンフォレスト(ルーラーシップ) | 藤原英昭 (栗東) | 9戦3勝 |
ピラミマ ※GI欄も参照 | ルナステラ(ディープインパクト) | 石坂正 (栗東) | 14戦3勝 |
エマノン(ハーツクライ) | 平田修 (栗東) | 24戦4勝 | |
ナンヨーカノン(フジキセキ) | 領家政蔵→松永幹夫 (栗東) | 37戦4勝 | |
プチノワール ※GI欄も参照 | ステイオンザトップ(ステイゴールド) | 須貝尚介 (栗東) | 37戦3勝 |
スペシャルグルーヴ ※重賞欄も参照 | フェイズベロシティ(キングカメハメハ) | 萩原清 (美浦) | 26戦3勝 |
2勝クラスを輩出
今回の募集馬の中で、2勝クラスを輩出した母は以下の17頭です。ここまで成績を広げると、ようやく数も増えてきた感じです。しかしディープインパクトやキングカメハメハ産駒で2勝クラスではちょっと物足りませんね。馬代金もペイできません。また種牡馬もランキング上位の馬がほとんどです。
繁殖牝馬名 | 産駒名(種牡馬名) | 厩舎 | 競走成績 |
アルビアーノ | アヴェラーレ(ドゥラメンテ) | 木村哲也(美浦) | 3戦2勝 |
ルシルク ※重賞欄も参照 | クロムレック(Smart Strike) | 戸田博文 (美浦) | 25戦3勝 |
ヴァンクールシルク(ヴィクトワールピサ) | 木村哲也→黒岩陽一 (美浦) | 21戦3勝 | |
アーデルハイト ※オープン欄も参照 | アーデルワイゼ(エイシンフラッシュ) | 池添学→石坂正 (栗東) | 24戦2勝 |
ヒカルアマランサス ※重賞欄も参照 | クインアマランサス(キングカメハメハ) | 高野友和 (栗東) | 13戦3勝 |
スイートセント(ワークフォース) | 栗田徹 (美浦) | 12戦2勝 | |
ゼマティス | スラッシュメタル(ワークフォース) | 西村真幸→小林真也 (栗東) | 27戦2勝 |
テルアケリー | シティーオブスター(ハーツクライ) | 矢野英一 (美浦) | 8戦2勝 |
ウルトラブレンド ※3勝クラス欄も参照 | ピュアブレンド(ヴィクトワールピサ) | 中川公成 (美浦) | 6戦2勝 |
カレドニアレディ | ミスマリア(ハーツクライ) | 栗田徹 (美浦) | 8戦2勝 |
ウェイクミーアップ | ジュンヴァルロ(New Approach) | 友道康夫 (栗東) | 9戦2勝 |
ディープストーリー | ビーマイオーシャン(エピファネイア) | 音無秀孝 (栗東) | 8戦2勝 |
グリューネワルト ※重賞欄も参照 | ミエノワールド(トゥザワールド) | 西園正都 (栗東) | 6戦2勝 |
プラウドスペル ※オープン欄も参照 | プランドラー(ディープインパクト) | 池江泰寿 (栗東) | 15戦2勝 |
プチノワール ※GI欄も参照 | ブレイニーラン(ディープインパクト) | 須貝尚介→畑端省吾 (栗東) | 29戦2勝 |
シーズインクルーデッド ※重賞欄も参照 | オリエンタルリリー(ダイワメジャー) | 中尾秀正 (栗東) | 13戦3勝 |
ドゥラモンド(ドゥラメンテ) | 手塚貴久 (美浦) | 5戦2勝 | |
アピールⅡ | ペールエール(ダイワメジャー) | 安田隆行 (栗東) | 12戦1勝 |
アイムユアーズ | モーベット(オルフェーヴル) | 藤沢和雄 (美浦) | 7戦2勝 |
メテオーリカ | ミッキーメテオ(ルーラーシップ) | 中内田充 (栗東) | 13戦2勝 |
まとめ
上記の内容をまとめると、以下の通りです。
項目 | 頭数 |
GI馬を輩出した頭数 | 4 |
重賞馬を輩出した頭数 | 8 |
オープン馬を輩出した頭数 | 9 |
3勝クラスを輩出した頭数 | 9 |
2勝クラスを輩出した頭数 | 17 |
正直なところ、今回のシルクの募集価格を踏まえると、さすがに2勝クラスは突破してほしいところ。
繰り返しになりますが、今年の募集でオープン以上の馬を輩出した母の総数は15頭、2勝クラス以上の馬を輩出した母の総数は25頭です。そのほかは1勝クラス以下、まだ産駒が未出走、初仔という形になります。
こうしてデータを踏まえて考えると、今回募集される74頭のうち、2勝クラス以上で活躍できそうな馬は大体3割くらいなのかなと思います。
最低2勝として、いくらまでであれば馬代金を回収できるか。
今度は産駒の回収率についても検討してみたいと思います。